おほきな蜘蛛のやうに眠ってゐる。
さびしいまつ暗な自然の中で
動物は恐れにふるへ
なにかの夢魔におびやかされ
かなしく青ざめて吠えてゐます。
のをあある とをあある やわあ
もろこしの葉は風に吹かれて
さわさと闇に鳴つてる。
お聴き! しづかにして
道路の向こうで吠えてゐる
あれは犬の遠吠だよ。
のをあある とをあある やわあ
「犬は病んゐるの? お母さん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのです。」
遠くの空の微光の方から
ふるえる物象のかげの方から
犬はかれらの敵を眺めた
遺伝の 本能の ふるいふるい記憶のはてに
あはれな先祖のすがたをかんじた。
犬のこころは恐れに青ざめ
夜陰の道路にながく吠える。
のをあある とをあある のをあある やわああ
「犬は病んでゐるの? お母さん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのですよ。」